#28【巍峡国史伝】天の章 伏せる月、ふるえる睡蓮
■前回のあらすじ■
母子山(ぼしざん)の白天社(はくてんしゃ)では安寧(あんねい)がいなくなって三週間の月日が流れていた。師匠たちの集団、十重布(じじゅうふ)の長、十三夜(とみや)はこの三週間ずっと悩んでいた。白天社を閉鎖するかどうかだ。
各地で天変地異が起こる事が報告される中、とうとう千蘇我(ちそが)の中央部であるここ、母子山でも異変が起こり始めていた。そして、恐らく、下界との戦が始まった時に一番危険になるのはここ、母子山であり、白天社であろう事も予測されていた。
さらに、白天社を閉鎖しようとしている理由が、十三夜にはあった。
仕事で各地の怪異を祓い、または静めに行くと、必ず安寧に関する証拠品が出てくるのだ。
様々な憶測はするものの、真意までは計り切れない。
そして、今は後ろめたい事も無いはずなのに証拠隠滅を図っているが、いつ、この事が明るみに出るか分からない。
その時に白天社が活きていると、子供たちを守り切る事ができない。
十三夜は、様子を見ていたが、行事も滞りを見せていて、いよいよ限界に達しているだろうと考え、言い出す時を見計らっていた。
そんな中、いつもの朝礼で十三夜がその事を切り出すと、タイミングよく、卒業生でもあり、生徒の千代の姉が十重布に
「蒲公英(ほくよう)が颪王(おろしおう)を亡き者にした」
という報告が飛び込んできた。
天変地異、
消えた生徒達、
蒲公英の不祥事の噂、
そして、安寧の失踪。
生徒の卒業も目途が立たない今、十重布達は満場一致で白天社を閉鎖する事にした。
まだ少し、危機感の少ない師もいる中、蓮華(れんげ)を送り出した臥待(ふしまち)は、何故だかとてつもなく嫌な予感が胸に迫るのを感じていた。
続きまして天の章、第二十八話。
お楽しみください。
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#28【巍峡国史伝】天の章 伏せる月、ふるえる睡蓮
生徒に全てを話し、十重布達はひとまず一段落した。
生徒達は涙ながらに親族に手紙を書き、明日の帰省の準備をし始めた。
今、白天社は静まり返っている。
生徒の対応と社の撤退の準備に疲れた師、複雑な気持ちのままの弟子が八日月の言った通り、人所に集まり、皆寝息を立てている。
師達も本来、門番に話しかけてはならないのだが、十三夜が門番に暇を与えた。
臥待は寝られずにいた。
持っていくものなどほとんどなく、最後の授業を終えて整理をしただけであった。
ここを離れるのが寂しいこともあるが、こんな形で故郷白馬に戻る事が心底不思議で現実の事なのかどうか、実感が湧かなかった。
ふと思い立ち、臥待は皆が寝静まる訓練場を後にした。
静かな回廊をひたひたと歩き、辿り着いたのは星。安寧の離れであった。
ここに来た事はほとんど無い。しかし、十三夜に付いて一度だけ足を踏み入れた事がある。
気を操ることが出来る三日月ならば水の上など造作もないのだろうが、自分は生憎半紙に向かうだけの師である。札を出して、ほいと地面に投げると札から大きく長い板が出てきて、向こう岸まで歩けるようになった。
慎重にそこを渡り、木戸をくぐり、建物の戸を開けた。
いつかとまるで変わっていない佇まい。なのに、変わってしまった時代。
主の居なくなった部屋は薄暗く、まるで生気がな かった。
右に御簾の連なる廊下。
左のお堂にある、 黄金に輝く龍と女神の像が月明かりに照らされる様を見て、改めて安寧が女神であると意識付けられた。
安寧の庵に行くための、小さな切戸。
その横には札があり、狛犬が封じられていた。
古びたその梵字の羅列する札を目の前に臥待は立ち止まり、懐から小さな刀を取り出した。
小指を傷つけ、 血を出すと、まず右側から文字を書き出した。梵字をそれも逆様からしたためている。淀みなく書き上げると、元あった赤茶けた文字が瓦解し、 安寧の紋となり、臥待はそれに手を乗せた。手をずらせば、しっかりした赤い線で、 臥待の紋が浮かんでいる。
「お前たちもお逃げ」
左右にその作業をすると切戸をさっとくぐり、臥待は飛び石を渡り、古びた庵に足を運んだ。
無断で入ったことのないそこは、緊張こそしたが、入ってみれば殺風景なものだった。
何か大切な書物などがあれば持ち出そうか、纏(まと)めようかと考えていたのだが、これなら何もする事は無いだろうと踵を返す。
すると、障子に影がある。
呼吸が止まるかと思ったが、ここにこられる人間というと、まず生徒ではない。
しかし…師達の内の誰かにも見えない。
どうにも雰囲気がここの者ではない気がした。
男の影のように見える。
案外障子は、臥待が警戒する中、さらりと開けられた。
見たこともない男だった。色黒の肌に短髪。 太くも形良い眉が片方上がるが、後は無表情の男だった。
人がいるのが意外だったのだろうか。男は口を開く。
「何をしている?」
思いがけなく向こうがそう聞いてきたものだから、臥待月は呆気にとられてしまった。
なんて堂々とした不審者なのか、と。
「それはこちらの台詞です」
「それもそうか」
彼は悪びれた様子もなく、むしろ爽やかに視線を横にやり、肩を竦めた。
銅の鎧の下は柔らかそうな服を着ている。…どう見ても、人間ではない。
若草色の光が動くと漂う。
彼が動くと臥待は警戒し、構えた。
それを彼は目を瞬かせて見てきた。
「お主は十重布であろう? 私が分からぬのか?」
吸い込まれそうなほどの黒い瞳であった。
柔らかい雰囲気は臥待がどれほど警戒しても、まるで崩れない。
「分かります。 高精霊の方でございましょう」
「何故牙を剥く」
「は…?…こんなご時世です。 見知らぬ者が敷地内に入れば、普通は警戒するものでしょう…」
「そうか…。 それもそうだな」
物分かりがいいのか、裏があるのか定かではないが、どうにも調子の狂う精霊だ。
「何をしていたのだ?」
「…。明日には皆ここを引き上げるので、何かあったら纏めて預かろうかと思っていたのです。貴方は何を?」
「ふむ。なるほど」
彼は聞いて聞かずか、さっと歩いてきて桐箪笥の上部の飾りを押した。
するとそれはガコっと跳ねるように開いた。隠し扉だった。
驚いてみていると彼はその棚を開け、二、三冊の書物を取り出してみせた。
「ここにはもうこれしかないであろうな。後は、持って行ってしまった」
と、やはり仏の座と言った彼は、無表情にそれを臥待に手渡した。
それを慌てて抱え、大事に揃えて臥待は持ち直す。
「あの、貴方は…」
「私は春が七草、仏の座と呼ばれている者よ」
臥待は体に電気が走ったのを感じた。
彼はやはり何食わぬ顔でその場に座り込んだ。随分自分勝手な者だ。
「そ、それで…?」
「うん? 私は見張りだ。一仕事終えて、また仕事なのだ」
彼はそう言うと、瞳を閉じて静かになってしまった。
生きているのか? そう思ってしまうほど気配が途端に薄くなる。
一連の出来事に伏待は動揺し、固まっていた。
彼は入り口にいる。
これは帰ってもいいということなのだろうか?
多くは語らなかったが、見張りだと言った。
一体、何を見張るというのだろうか?
春の精霊が何故この時間、ここに?
安寧が消える前の日、彼女は畳を張り替えたようで、伊草の香りがした。
外の明るみに誘われるように、慎重に彼を除けて臥待は障子の取っ手に手をかけた。
「出ぬほうが良いかもしれぬぞ? 人の子」
目を閉じていた彼は、その姿勢のまま真っ黒な瞳を臥待に向け、そう告げた。
しかし、臥待とて、いい知れぬ悪い予感は、未だ続いている。
一度その言葉をしっかり受け止め、聞き返した。
「どういうことです?」
「……分からぬ。 私は大地が女神の指令通りに動いているのだ。御社に影が差しているのだと言われてな」
少年のような顔をしている、四千歳を超える精霊の男はそう言ったきり語らなかった。彼もそれ以上を知らないのだろう。
怪訝な顔をすると、月灯りではない灯りが目の前にほとばしった。
ばっと強い光で、障子が明るくなったのだ。
その光は不規則で、しかし強烈な光であった。それと、何か大きな音がする。
段々と大きくなっていく光と音。
仏の座はちらと目線をそちらにやるが、ただ黙っている。
「何…だ?」
臥待は極小さく呟いた。有り得ない光なのは重々承知であった。
普通だったら考えられない事が起きている。
しかし、それを確かめるのも怖い気がした。
それを振り切るように、思い切って臥待は障子を開けた。
燃えていた。
白天社が燃えている。
赤黒い煙をあちこちで噴出しながら。
火の粉と焦げた臭いが、一気に部屋に雪崩れ込んでくる。
頬が熱い。
ぽかんと、臥待はその光景を見ていた。
何が起きたのか?
理解が出来ず、固まる臥待の横に、ゆるりと仏の座が立ち上がり、その光景を見る。
臥待よりも随分背が高かった。
「烏(からす)か。手段を選ばぬとは聞いていたが…」
臥待がおもむろに走り出そうとすると、仏の座はその襟首を掴んだ。
「離せ!生徒と同胞を救う!」
普段の冷静さを臥待は失っていた。
「待て。 私が考えるに、相手は神と同等の力を持つ、新参者だ。私とて迂闊(うかつ)に手を出せぬ。そして、こちらは風下だ。分かるか?」
「分かりたくもない!!何者であろうと、恐れはしない!生徒が焼かれるならば、私が焼かれたほうがましだ!」
叫びのような咆哮と、本気の怒気を宿したを臥待の目を見た仏の座は、驚いた表情で臥待を掴むその手を放した。
駆け出し、闇に消えて行く彼女を仏の座は呆然と見送った。
しかし、少ししてから彼は炎の方を見、そちらに足を向けたのだった…。
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…#29へ続く▶▶▶
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