#24【巍峡国史伝】天の章 伏せる月、ふるえる睡蓮
■前回のあらすじ■
「ひとまず、犬御神になる」
蒲公英(ほくよう)の保身に走らず、自分が最大限できる事を一人でもやろうとしていた“ひとまず”の大きな出方、その意志に、冬の地の守護者、五天布(ごてんふ)の黒冬(こくとう)は、予想以上の蒲公英の回答に驚くと同時に、初めて事件に関して興味を持った。
感情や生死と言った生きる事に関して想いが薄い千蘇我(ちそが)の地で、蒲公英のような者は珍しく、黒冬の瞳に光が戻る。
そして、お互いに何故か懐かしさを感じ、不思議な縁を感じていた。
秋の七草の精霊藤袴(とうく)の説明から、今この集まりに五天布の呪いを解く方法、犬御神になる方法を知る者は居なかったが、白天社に新たな動きがあり、貴重な書物があると知った黒冬は、蒲公英の護衛兼お目付け役として、共に白天社に行く事を誓った。
時間が無く、手札も揃っていない冬の陣営としては苦肉の策であったが、可能性としては今は一番ある行動だったので、冬の王颪王(おろしおう)と藤袴は彼らに賛同した。
うつ田姫だけは納得していないようだったが、こうして、黒冬と蒲公英は二人だけで隠密に白天社へ向かう事となった。
その頃、春の精霊の陣営では…。
続きまして天の章、第二十四話。
お楽しみください。
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#24【巍峡国史伝】天の章 伏せる月、ふるえる睡蓮
繫縷(はこべら)は、謡谷の険しい崖を上っていた。
桜が咽(むせ)るほど咲狂う地、「謡谷(うただに)」。
今その守護の精霊はどこぞへ行ってしまったようだが、彼にはまるで関係なかった。
彼の容姿は狐か蛇のような顔をし、 顔色は青白いが、その唇はこの謡谷の桜のように色づいている。
祈祷師のような真っ白な衣を纏(まと)い、左のこめかみの高さに美豆羅(みずら)のように髪を結っている。
だるそうな動きで、滝の裏に身を滑り込ませ、洞窟を抜け、
茂った穴蔵に歩を進めると、彼は白い鉢巻の下の一重の目をすぐさま目の前の女に向けた。
「何処へ参っておったのだ。主がふらりといなくなること は珍しくは無いが、度を過ぎていよう」
繫縷は白い布に包まれた円柱状の物を片手で放って、そして回転させたそれを持ち直した。
その細い体からは信じ難い機敏な動きであった。
「何、遠征中に腕を一本失ったのだよ。代わりの腕を探しておったのだ」
そう言って尚、繫縷は円柱の布を放っては、「にっ」と妖しく笑って見せた。
菘(すずな)は繫縷のその笑顔を見て、あからさまに嫌な顔をした。
洞窟の上は崖となっており、そこに無数の木の根が張り巡らされている。
よって、 上からの日の光が、複雑にこの洞窟に漏れ出でて、
ゆらゆらと二人を照らした。
時折、桜の花が二人の間に舞い落ちてくるが、それは気持ちを和ませてはくれなかった。
「酷い悪臭よ。人の腕ではあるまい」
「何でも良いであろう。物を掴み、我が血が通えば良いのだからな」
繫縷は何てことないような顔で、不思議そうに菘を見つめた。
その瞳の奥には身が冷えるほどの未知なる思想が渦巻いていそうで、菘は苦々しげに目を細めた。
「我が身を案じてくれるは嬉しいが、 安寧殿は如何しておられるのだ?」
菘は最早口を閉ざし、繫縷に背を向けて手だけで進むことを促した。
ほんの少し歩を進めただけで、屈まなければ入れない入り口が目の前に現れる。
そこを抜ければ地上まで吹き抜けの薄暗い部屋が現れる。
とは言っても葡萄色の布で囲う簡易な部屋であるが。
その簡易な部屋に、一人だけ腰掛けている者がおり、
後は全員立って部屋に入ってくる繫縷と菘を見ていた。
座っている老人が、入ってくる繫縷をチラリと見る。
何が言いたいか察したのか、繫縷は口を開く。
「他にも不在の者がいるようだけど?」
「蘿蔔(すずしろ)と仏の座はおらぬよ。 安寧様に使われておる」
地上からこの部屋に入り込む鈍い光の中に、微かに舞う金雲。
そして、その白い光の中に老人は立ち上がり、ずるずると歩いてきた。
真っ白な白髪頭を頭の天辺で纏(まと)めているが、
右横から後れ毛とも言えない一房が顔のほうに流れてきている。
落ち窪んだ目をしているが、その眼光は他の精霊と同じような光を湛えている。
左右白と黒で分かれている衣は身の丈より長い。
「芹老(せりろう)よ。 何ゆえ我らを集めた」
が尋ねると彼は、ほっほと肩を揺らして笑った。
「状況を確認し、安寧様が動きやすいようにしようとしたまでよ。何しろ、春の奴らは気ままでいかんからのぉ」
「翁が一番、儘よ」
壁により掛かり、素っ気なく笑った男はそう言って肩を竦めた。
名を御形(ごぎょう)と言い、短く切った髪を後ろになでつけている男は強面の顔には異質に映る、黒く大きな瞳と二重の目を細め、繫縷の右腕に抱えられているものを見た。
繫縷は普段と変わらぬ様子で芹を見ている。
それを御形は黙って見ていた。
「早くしないと、腕がつかなくなるのだが?」
面倒そうに軽く言う繫縷。
御形はギクリとし、繫縷を凝視したが、他の精霊は溜息にも似た声を漏らした。
「何も腕を切り落とさなくとも良かったじゃろうて。 精霊の身は神聖なものじゃぞ? 尤も、わしは固執しとらんがな」
芹がそう言うと繁縷は鼻で笑い、それきりだった。
御形は沈黙に頭を掻いた。
一同が黙ると、菘が口を開く。
「薺(なずな)、五天布が二人も行方を晦ました今現在、女神は如何なることになるか?」
心配気な面持ちで菘が芹の横にいた人物に声をかけた。
「五天布の力を封じる為、その魂に龍神が五千年前封印した安寧様の女神の力。これをわざと乱雑に解き、元の器に戻すが上策でありましたが、今や五天布は、春の青春はいち早くそれに気がつき逃亡。秋の白秋に至っては身を潜め、縦(よし)んば噛み付かんとする意気にございますので、解呪は諸刃の剣となってしまいましたから…。無理な“解”で五天布は命を落とす寸法でございましたが…。しかしまだ、時間が許す限り狙っていきたいところです。この力の解放は大きいので…」
暗がりから出てきた薺は、潤ったその瞳の眼光をここの暗がりでぬらぬらと光らせ、挑戦的な上目でを見据えた。
芹、繫縷、仏の座同様、性を持たない薺は、微笑めば少女に見えるが、
毅然とした、あるいは殺伐とした態度や言葉は少年のようだ。
文官のような出で立ちで、袖の中に手を入れている。
その猫のような目が自然と繁縷の手元にいき、
あからさまに嫌な顔をするが、知ってか知らずか芹が口を開いた。
「なれば、十重布(じじゅうふ)を力の還元に使う他なかろう。あれはそういう役目で置いた者であるしのぅ。女神殿には申し訳ないが、今のままではいずれの封印にも、下界の二神の身にも触れられまいて」
芹は口だけ動かしてそう言う。
「早急に御力を取り戻さねば…。日々事の成就の為、下界のとの急激な干渉の摩擦を和らげるため、力を削ぎ憔悴していく女神が…見ていてとても心苦しい。…十重布なれば容易く仕留められよう。参るぞ」
「お待ちなさい、菘」
今にも飛び出さんとする勢いでが踵を返したところを薺が止めた。
ゆっくりと歩き、その菘の肩には触れ、眉尻を下げた。
「急いては事を仕損じるとは、我々高精霊にも言える事にございます。菘がやり込められることは、万が一つにもないでしょうが、一人ずつ、確実に。 春の七草の菘は、この薺の知る限り貴女の他にはいないのですから」
「承知しておる」
顎の線に沿って綺麗に切られた黒髪を、菘は揺らし、戸惑う色を瞳の奥に映しながらも、いつものように毅然とした顔つきで入り口へ消えていった。
「私も行った方が良いでしょうか…」
菘を見送りながら薺がそう呟くと、繫縷は聞いてか聞かずかその横で、
「私はともかく、小用がありますので」
と、部屋の奥に去って行った。
薺が眉をひそめて去り行く繫縷の背を目で追うが、
その視界に芹が現れ、薺の肩をぽんと叩いた。
「薺は女神殿の元へ。御形、主は蘿蔔に付け」
腕を組んで状況を見ていた御形は顔を曇らせ、芹のその発言を訝しんだ。
薺は何を考えているのか、その間にも目を伏せて沈黙した。
「翁…?それは如何な理由で…?」
「ほっほっ…。御形よ、奴は我らとは違う。神よ」
瞬時に御形は嫌な顔をし、むっと眉を吊り上げた。
「奴は女神殿の力を吸い込んだ花を媒介に、麒麟との間に神の子を儲けておる。偶然生まれた子にしろ、奴は犬御神を愛しておった。それは、我々の知るところじゃな?」
「いかにも。しかし…」
「まあ、待て。聞くのじゃ」
芹は御形の言葉を遮り、あっさりと言う。
「奴は我らが封印されていたこの数千年、呪縛を逃れ一人長い時を生きておったのだよ」
「まさか…!?」
「ありえません! 龍の力と、女神の目から逃れられるなど…」
今度は薺までが声を荒げ、芹に食いついた。
それほどまでに信じがたい真実だったのだ。
神の目を欺けるのは、神しかいない。
彼らはそれを瞬時に分かったが、理解するには難しかった。
「じゃから、我らとは違うのだと言うたじゃろうて」
薄暗い部屋の中、三人は仁王立ちで沈黙した。
芹は眉を上げ、目を光らせる。
「その間、転生しては死に逝く犬御神を、懇(ねんご)ろに育て続けたとか。…泣ける話ではあるが、ちと気になる。犬御神覚醒 に支障を来たす事態が起こるやも知れん。解したか?」
御形は納得できない顔であったが、足早に出口に向かおうとする。
しかし、ふと立ち止まった。
「翁よ」
「うん?」
「…何故我らが封印されていた間のこと、翁が知る?」
「うむ…」
肩越しに御形がそう言うと、合間に挟まれた薺も、神妙顔をして芹を見た。
芹は少しの間黙ると、言った。
「ふむ。西の守護者がそう…な」
「芹老! 白秋と言えば貴方、王側の者ではないですか!信用なさったのですか!?」
薺は声も荒げ芹に掴みかからんばかりに言うが、芹は笑っていた。
しかしどこか、慎重な気配もあった。
「ほほ…。薺よ…。白秋と言えば、他人の体を乗っ取る悪鬼よ。ほぼ、約三千年前から魂を同じくしておる奴のほうが、我らより物事をその目で見てきたのよ。何を考えて蝙蝠をやっておるのか知らぬが、な」
今まで穏やかに話していた芹は、急に言葉を硬くし、黙りこくった。
薺が身じろぎすると、 芹は「仕事にかかるぞ」と、出口に歩を進めた。
崖の上からの朧な光に乗って、この部屋に桜の花弁がゆらんと落ちてきた。
「考えあぐねておっても仕方あるまい。薺よ。我も任に就こう」
御形もそう言って踵を返すが、 薺は未だにこの場を動けないでいた。
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…#25へ続く▶▶▶
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